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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)1061号 判決

第一

当事者(前掲)〔略〕

第二 主文

一  被告両名は連帯して原告に対し金一一七万円及び内金一〇七万円につき昭和四六年九月二八日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を附加して支払え。

二  その余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告両名の負担とする。

四  右第一項に限り仮に執行することができる。

第三 事実

一  請求の趣旨

被告両名は連帯して原告に対し金二七六万二九九一円及び内金一一九万円につき昭和四六年九月二八日以降、その余の内金一三七万二九九一円につき昭和四七年九月二八日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を附加して支払え。

訴訟費用は被告両名の負担とする。

仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する被告側の答弁

本訴請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

三  請求の原因

(一)  (事故の発生)

原告は次の交通事故により負傷した。

1  発生時 昭和四五年九月一〇日午前一〇時三〇分頃

2  発生地 杉並区成田東三―二―四先交差点

3  被告車 自家用普通貨物自動車(練馬四は五〇二二号)

運転者 被告裕彦

4  原告車 自家用普通乗用車(練馬五み四一五三号)

運転者 原告

5  態様 右折のため停車中の原告車に被告車が追突。

6  傷害の部位程度

(病名)

頸・腰部捻挫。

(治療)

次のとおり通院治療した。

<省略>

7  後遺症

頸・腰・頭・左上肢の各痛、左上肢のシビレ感が頑固な症状として残り、昭和四六年九月二八日、三楽病院にて、自賠法施行令別表等級の第一二級第一二号に該当する旨の後遺症と認定された。

(二)  (責任原因)

被告両名は、次の理由により本件事故によつて蒙つた原告の損害を連帯して賠償する責任がある。

1  被告義雄は被告車を所有し、自己のために運行の用に供する者であつたから自賠法三条による責任。

2  被告義雄は、肩書地において防水工事請負業兼釣具店経営を業とし、被告裕彦(息子)を使用し、同被告が被告義雄の業務の執行中後記のとおり過失により本件事故を起したから、使用者として民法七一五条一項による責任。

3  被告裕彦は、前方注視義務を怠り、被告車を運転した過失により本件事故を発生させた運転者本人として民法七〇九条による責任。

(三)  (損害)

1  休業損害 金二四万円

原告は事故後の自宅での療養二一日間の他に、前記傷害のため後遺症認定時まで一五日間合計三六日間勤務を休んだ。これらはいずれも昭和四五年及び四六年度の有給休暇を振り当てたため、計算上の休業損害は生じなかつたが、実質的には財産上の損害があつたと言わねばならない。何故なら有給休暇とは、労働者がこれを有意義に自己のため、または労働力再生産のために使用する権利を持つ休暇であり、その有給であることの意味からしても労働に対する対価であり、財産的価値を有しているものである。原告は被告らから蒙つた傷害のため生ずる名目上の減収を避けるためやむなくこの財産的価値を有する有給休暇を費消したのであるから、原告は右有給休暇の有する財産的価値に相当する損害を受けたのである。原告の年収は昭和四六年度に於て金二、四五一、六八〇円であつたから、一日の有給休暇の有する財産的価値は約金六、七一八円とみることができる。

よつて原告は前記療養期間三六日分の休業損害として、金二四万円を請求する。

2  逸失利益

原告は本件事故による後遺症のため、身体にきびしい障害を残すに至つており、そのため現在も休暇を休養にあてているのみならず、その苦痛をやわらげるため通院をしている状態であり、また従前行なつていた自動車の運転も全くできない状況にある。

右後遺症は、昭和四六年九月二八日に自賠法施行令別表の等級一二級一二号に該当すると認定され、少なくとも今後四年間は右症状が継続すると考えられる。また右認定時昭和四六年九月二八日以後においても年間二〇日程度の休業(または有給休暇を犠牲にする)が必要と考えられる。

(1) よつて右後遺症による労働能力喪失率を一四%とし、原告の昭和四六年度の年収金二、四五一、六八〇円を基準に算出すると、原告は年間金三四三、二三五円の逸失利益があり、これが少なくとも四年間継続すると考えられるから、この賠償を後遺症認定時より一年経過した昭和四七年九月二九日に受領するとしてホフマン式計算法により算出すれば、四年間の逸失利益は金一、二三八、六三一円(すなわち一年経過分三四万三、二三五円と、将来の三年分に係数〇・八六九五六五二一を乗じた金八九万五三九六円との合計)となる。

(2) さらに一日当りの収入は約金六七一八円であるから昭和四六年九月二九日以降昭和四七年九月二八日までの一年分の休業日数二〇日間相当の逸失利益金一三万四三六〇円が生じている。

(3) 以上(1)(2)を合算すると、原告の逸失利益相当の損害金は、金一三七万二九九一円である。

3  慰藉料 金九五万円

前記事実により原告の蒙つた精神的苦痛を慰藉するためには、昭和四五年九月一〇日から同四六年九月二八日までの治療期間約一二ケ月半(うち入院に相当する自宅療養二一日間、通院実日数計一九〇日間)の慰藉料として金五五万円と、後遺症一二級一二号の慰藉料として金四〇万円との合計金九五万円が相当である。

4  弁護士費用 金二〇万円

原告は前記損害中慰藉料について被告らに支払を求めたところ、わずか金一〇万円の回答しか得られず、世間並の解決を要求しても何かと理由をつけて話し合いを拒み、前記損害賠償義務を任意に履行しない。そこでやむなく原告訴訟代理人弁護士に依頼して本訴を提起したものであり、本訴提起により原告は金二〇万円の弁護士費用を要する。

5  損害の填補

なお前記加療に関し、原告は、昭和四六年九月二八日の後遺症認定時までの治療費、交通費、及び同年三月末日までの雑費については被告側より支払を受けた。

(四)  (結論)

よつて原告は被告らに対し、各自金二七六万二九九一円及び内金一一九万円については症状の固定した昭和四六年九月二八日以降、その余の内金一三七万二九九一円については右一カ年後である昭和四七年九月二八日以降それぞれ完済に至るまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

四  被告側の答弁

(一)  請求原因第(一)項中、6、7は不知、その余は認める。

(二)  同第(二)項中、本件事故に関し被告義雄が被告車の運行供用者として自賠法三条による責任があること、被告裕彦が不法行為者本人として民法七〇九条による各損害賠償責任があることは認める。

(三)  同第(三)項は不知。但し5(損害の填補)は認める。

(四)  同第(四)項は争う。

第四 理由

一  (事故の発生)

請求原因第(一)項中、6(傷害の部位程度)、7(後遺症)を除き、その余の事実は当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によれば、右6(傷害の部位程度)、7(後遺症)は、原告主張のとおりであることを認め得る。

二  (責任原因)

本件事故に関し、被告義雄が被告車の運行供用者として自賠法三条により、被告裕彦が不法行為者本人として民法七〇九条により原告の人身損害を賠償する責任があることは、被告側において認めているところである。従つて被告両名は連帯して後記認定の損害を賠償する責任がある。

三  (損害)

(一)  休業損害 金一〇万円

(1)  有給休暇は、その日の労働なくして給与を受けるものであり、労働者の持つ一つの権利として財産的価値を有するものと考えるのが相当である。従つて他人による不法行為の結果有給休暇を費消せざるを得なかつた者は、それを一つの財産的損害として不法行為者に賠償を請求しうるものであり、一日の有給休暇の持つ財産的価値は原告主張のように年収を一年間の日数三六五で除した額に相当するものと考えることができる。

(2)  〔証拠略〕によれば、原告は本件事故後、後遺症認定(症状固定)時の昭和四六年九月二八日までに一五日分の有給休暇をとつていることが認められ、〔証拠略〕によれば右有給休暇はいずれも本件事故による受傷の治療のための通院ないしは休養にあてられたことが認められる。また〔証拠略〕によれば昭和四六年度の原告の年収は金二、四五一、六八〇円であつたことが認められ、これを前記算定基準にあてはめれば、原告が一五日分の有給休暇を費消したことによる損害は金一〇万円と認めるのが相当である。

(二)  逸失利益 金二万円

(1)  原告は後遺症による労働能力低下による逸失利益を労働能力喪失率一四%を前提に症状固定後四カ年分を訴求しているところ〔証拠略〕を総合すれば、原告(大正一〇年三月一〇日生)は都立三田高校の社会科(人文地理)の教諭であり、後遺症として症状固定後も済生会中央病院に通院しており、そのために担当授業時限の振り割りに学校側の配慮をわずらわした結果、授業に差しつかえなく、給与の減少などの経済的不利もなく勤続して現在に及んでいることが認められる。従つて形式的に労働能力喪失率を適用した原告の逸失利益の訴求は、これを認めるに足りる証拠はないものというべく、失当である。

(2)  次に、原告が年間二〇日間の休業ないしは有給休暇を、治療のため必要とするとの主張を認めるに足りる証拠はない。

(3)  しかし〔証拠略〕によれば、原告は後遺症認定後、昭和四六年の一〇月と一一月に四日分の有給休暇をとつていることが認められ、〔証拠略〕によれば、これらはいずれも治療のために使われたことが認められ、この限りで原告に損失があつたと認めることができ、この損失を前記基準に従い算出した範囲内の金二万円を認めるのが相当である。

(三)  慰藉料 金九五万円

前認定のとおり通院治療を重ね、昭和四六年九月二八日一二級一二号に該当する後遺症の認定を受けたこと、現在に至るまで済生会中央病院に治療のため通院していること、また後遺症による労働能力低下のために原告に経済的損失が生じることが認められないのは前記認定のとおりであるとしても、原告がかなりの精神的苦痛を受けていることは容易に推認でき、学校や同僚に対し肩身の狭い思いをしているであろうことを考え合わせると、治療して現在に至つている分の慰藉料として金五五万円、後遺症の慰藉料として金四〇万円が相当である。

(四)  弁護士報酬 金一〇万円

被告が原告の賠償請求に誠意ある応答を示さないため、原告が本訴提起を余儀なくさせられたことは弁論の全趣旨から明らかであるが、前記本訴請求認容額に照らして考えると、損害として請求しうる弁護士報酬額は金一〇万円が相当である。

四  (結論)

よつて原告の本訴請求は被告両名に対し金一一七万円及びうち金一〇七万円(即ち弁護士費用を除く部分)につき症状固定後である昭和四六年九月二八日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 龍前三郎)

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